レトリックにはさまざまな種類がありますが、ここでは3種類に絞ります。「メタファー」「対義結合」「黙説」です。専門用語ゆえに難しそうな印象を受けるかもしれませんが、内容はとてもシンプルです。
今回も実際の用例を見ながら、
できるだけ分かりやすく解説していきます。
前回の記事は古代ギリシャの話で面白かったです。
前回の記事はこちらをどうぞ⇩
コピーのレトリックってなに?その歴史は古代ギリシャまで遡っていた
メタファー、対義結合、黙説のレトリック
直接引用する際は出典を明記するようにしますが、私見も交えながら、コピーライティングにおけるレトリックの働きについて説明します。
メタファーたとえるレトリック
レトリックの代表と言っても過言ではない修辞技法です。
日本語では「暗喩(あんゆ)」「隠喩(いんゆ)」と呼ばれていますが、シンプルに「たとえ」と理解すると十分でしょう。
例題:「恋に落ちる」というメタファー
ここにはメタファーが用いられています。
「恋」というものが「落とし穴」にたとえられているからです。
はっきりとは表現されていませんが、「恋に落ちる」ということばの根底には、「恋は落とし穴である」というメタファーが隠れているのです。
実際の「落とし穴」とはどのようなものでしょうか。落とし穴にハマりたくてハマるという人はほとんどいないでしょう。
不意に落ちてしまうのが「落とし穴」です。
だとすると「恋(という落とし穴)に落ちる」とは、不意に恋してしまう瞬間のことを、具体的なイメージを喚起しながら表していると考えられます。
なるほど~。私たちは「恋に落ちる」というメタファー
を使っているんですね。
そうなんですよ!
「泥沼の恋」というのもメタファーも使っていますね。
メタファーと同様の働きをするレトリックとして「シミリ(英:simile)」というものもあります。
「恋は落とし穴だ」がメタファーで、「恋は落とし穴のようなものだ」がシミリです。
他にも違いはありますが、ある物を別の物にたとえるという役割は同じと考えられるので、ここでは区別せずに扱うことにします。
メタファー/シミリを使ったコピーライティング
メタファー(またシミリ)を使ったコピーライティングの例を見ていきましょう。
まずは食器洗い用洗剤の宣伝文句です
「この洗剤は、頑固な汚れをブルドーザーのようにキレイに落とします」
引用元:(『キャッチコピー力の基本』136頁)。
ここでは、「洗剤」が「ブルドーザー」にたとえられています。
ブルドーザーに対して、私たちはどのようなイメージを抱いているでしょうか。
土をならしながら、また運びながら力強く前進する姿を思い浮かべる人が多いでしょう。
頑固な汚れを落とすことができる洗剤を宣伝するために、土を根こそぎ運ぶブルドーザーのイメージを用いているのです。
ちなみにこの広告は、サンタクララ大学のマクワリーとフィリップスによる実験で用いられました。
メタファーを使ったコピー(この洗剤は、頑固な汚れをブルドーザーのようにキレイに落とします)とすると使ってないコピーは?
使っていないコピーは
(この洗剤は、頑固な汚れをキレイに落とします)ですか?
正解です!
二つを比較して、その効果を検証したのがあるんです。
テストの結果、被験者のうち、メタファーを使った広告を見た人の方が「この洗剤を使ってみたい」と感じたそうです。
メタファーを使うことで、具体的なイメージ(力強く進むブルドーザーなど)を喚起することができるからでしょう。効果的なメタファーには、読者を惹きつけ、また動かす力があるということが分かります。
対義結合 ~逆の意味のことばを結び合わせるレトリック
「対義結合(たいぎけつごう)」と呼ばれるレトリックです。反対の意味のことばを結び合わせるレトリックということになります。
「波子はだまつてゐたが、胸の底に、冷たい炎がふるへた。」
引用元:(川端康成『舞姫』)
ここでは「冷たい炎」ということばが対義結合の表現です。
「冷たい」と「炎」は、常識的には相容れないものでしょう。
しかし川端康成は、あえて反対の意味をもつ「冷たい」と「炎」を結び合わせました。
これもレトリックが持つ力の一つです。
テレビでもある「ヘタウマ」な絵の表現も対義結合?
それも正解です!下手と上手いを組み合わせていますね!
対義結合というレトリックは、矛盾したように思える感情や現実を鋭く描き出す力があると言えます。
このようなレトリックを用いることで、新しい現実を造
り出し、読者の認識を変えてしまうこともできるのです。対義結合というレトリックには、そのような効果があると言えるかもしれません。
黙説~言わずして想像させるレトリック
最後に、「黙説(もくせつ)」というレトリックを
紹介したいと思います。
このレトリックの特徴について、は次のように述べています。
「何かを言いかけて、途中でやめてしまう、そして、あとは言わなくてもわかってもらえるだろう……と、いちおう期待することである。」
引用元:(『レトリック認識』佐藤信夫氏21頁)
「途中でやめてしまう」というところに黙説の本質があると言えます。
「葉蔵は、はるかに海を見おろした。すぐ足もとから、三十丈もの断崖になつてゐて、江の島が真下に小さく見えた。ふかい朝霧の奥底に、海水がゆらゆらうごいてゐた。そして、否、それだけのことである。」引用元:(太宰治『道家の花』)
この文章では、「そして、否、それだけのことである」が黙説に当たります。
『道家の花』という小説の結びの文章です。
葉蔵という人物は女性と海で心中をし損ない、療養院に入れられていました。
退院の日、彼は自分の世話をしてくれていた看護婦とともに裏山に登ります。
何ごとかが起こりそうな場面、しかし著者はそこで「そして、否、それだけのことである」と記すのです。
なんか、続きが気になりますね。
そうなんです!
黙説には、読者の想像力をかき立てるという力があります。
読者は、著者が中途半端に書き終えた物語の続きを受け継ぐ役割を担うことになるのです。
黙説を使ったコピーは、読者に「続きを知りたい」と思わせる力があります。
本のタイトル: 「火のないところに煙は」
引用元:(芹沢央、2018年、新潮社)
ミステリ小説のタイトルですが「火のないところに煙は」で中断されてしまうと、読者は「煙は立つのか、立たないのか、どっちなんだ」と惑わされてしまいます。
確かに迷いますね。しかし色んな技法がありますね。
ブログや電子書籍のタイトル作りにも役立ちそうです。
読者を惑わすところに、このコピーの魅力があります。
是非役立たせてください!
まとめ
ブログのタイトルや文章においても、黙説のレトリックを用いることができれば、読者を効果的に惹きつけることができるのです。何を何にたとえてみようか、どんな異質なことばを結びつけようか、どんな形で文章を中途半端に終えてみようか。
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レトリックの楽しさを味わってみてください。